

「伊勢へ七たび、熊野へ三たび」とうたわれた熊野詣での起源は、平安時代にさかのぼります。上皇や貴族、そして江戸時代には庶民も熊野の霊域を目指しました。京の都からは往復およそ一ヵ月。列をなして歩く様子は「蟻の熊野詣で」と例えられたとか。古道沿いには茶屋が点在し、酒や餅で参詣者をもてなしたと伝わります。魂の再生を願う多くの人々を、よみがえりの聖地へといざなう道。現在まで脈々と継承されてきた祈りの文化が評価され、熊野古道は2004年にユネスコの世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」として登録されました。
鈴木宗右衛門酒造のルーツは熊野本宮大社の神官を代々受け継いできた熊野鈴木氏。その流れを汲み、天保年間には当地で酒造りを営んでいたと記録が残ります。古代から神聖な作業と考えられてきた酒造り。酒はまず神が呑み、人が呑むと言われます。自然界の霊力を体に頂くために、神事には欠かせないものでした。私たちの酒造りは熊野の精神文化と共に歩んできました。代表銘柄に「熊野古道」と冠したのは、神と人が織りなしてきた悠久を感じてもらいたいとの想いからです。これからも熊野に息づく伝統の味を守りながら、未来に歴史を刻んで参ります。